アブラハム物語(9)

聖書の物語

ろばにのって

アブラハムは、サラにも、イサクにも、もちろんほかの誰にも、アブラハムがイサクを捧げようとしていることは話しませんでした。

しかしイサクに、「共に祭壇を捧げにいこう」と言いました。

明け方早くにロバと二人の若者とイサクと4人で出かけました。

三日の道のりを着たとき、一緒にきた人たちにアブラハムはついてきた2人の若者に、

「ここからは我が息子イサクと2人で行きます。
 ここで待っていてください。」

と言いました。そうして、アブラハムは燔祭のたきぎを取って、その子イサク背負わせました。
彼の手には、火と刃物をもって、道を進み始めました。

アブラハムが先に、イサクは重たい薪をもってついていきます。
イサクは父アブラハムに言った、
「お父さん。火とたきぎとはありますが、捧げものになる羊はどうしますか?」

すると、アブラハムは「羊は神様が用意してくださっているから、用意しなくても大丈夫だ」と言いました。

山の上まで来て、イサクは薪を下ろしました。
小さな体で薪を背負ってついてきたので、薪を下ろすと、静かにその場に座り込んでしまいました。

祭壇

祭壇は、父によってあっという間に築かれていきました。
羊はどうするのだろうか?
いつもと同じく神様の前だから、と声を発することもない父。

最後に、薪をゆっくりと並べました。
その間ずっとイサクは父の背中を見つめていました。

すっとイサクのほうを振り向くと、イサクをさっと縛りました。
そうして、敷き詰めた薪の上にのせました。

あっという間の出来事でした。
父にこんなに力があったのだと驚くほどの速さでした。
そうして、祭壇のそばに置いてあった刃物を握り、
迷いなくさっと振り上げる父アブラハムの姿に、イサクは何も声を上げることができませんでした。

混乱することも暴れる暇もない状況ではっと息をのんだ瞬間、アブラハムは手を止めました。

雪解け

神様は、もうじっと見つめていましたが、アブラハムの迷いのない姿に少し慌てました。そうして、急いで叫びました。
そばにいた天使たちは、慌てて彼の手をつかむように飛んでいきました。

「アブラハムよ、アブラハムよ」。
神様は大声で叫びました。

いつもとはちがって、息せききったような感じでしたが確かに聞こえる神様の声でた。
祭壇を捧げ終える前に神様の声を聞いたのは初めてでしたが、神様の声にアブラハムはびっくりして、斧をいったんおいてひざまずきました。

「はい、ここにおります」。

イサクは、薪の上ではっと身を起こしたまま、父を見つめました。

天使は、アブラハムが膝をかがめて、イサクが無事であることを確認してから、息せききっていいました。

「その子を殺してはいけない。
殺してはならないばかりか、何の傷も負わせてはならない。
私があなたに子を捧げろといったのは、あなたの心が知りたかっただけだ。

あなたがあなたの命より大切だといった、たったひとりの息子でさえ、わたしのために惜しまない姿を見せてくれた。
私は、万物をただ受け取りたいのではない。
本当に受け取りたいのは、あなたの真心一つだ。

私は、信じる人の心と人生に働きかけて初めて私という存在を証明することができる。
あなたとイサクがここで私にしてくれたことは、この地上のどんな神と呼ばれる存在より私エホバが優れている神だということを証明してくれたいきさつとして永遠まで忘れないだろう。
あなたは、人は、見えない神をはっきりと胸に刻んで愛することができる存在なのだと、私に知らせてくれた。

だから、私はイサクがこれからも生きて、その人生を私とともに歩んでくれることを切に願っている」

神様は、この時初めて、裏切られて閉じていた心の門を開いたのです。
神様の心に、冷たく、痛く突き刺さっていた氷の剣が解けていくような感じがしました。

アブラハムは、じっとうなだれて聞いていました。
神様の心が自分の中に滝のように流れてくる感じがしました。

アドナイ・エレ

しかし、ここでイサクを捧げないとなれば、
一体神様との祭壇をどう締めくくればいいというのだろうか?
羊を持ってこなかった・・。とふっと目を上げると、
木の茂みのところに角がひっかかっている一頭の羊がいました。

アブラハムは行ってその羊をつかまえて、
イサクとともにその子のかわりにささげました。

そこで、アブラハムは大きな声で叫びました。
「主の山に備えあり!」
主は私とともにおられ、私に足りないものをいつも満たしてくださる!

アラム語でアドナイ・エレと言います。
大きな声で泣きながら叫びました。

羊を裂いて、火をつけ、焼いてイサクとともに膝まづいて祈っていると、神様は再びおっしゃいました。
「私があなたとあなたの子イサクと結んだ絆は固く、誰も壊すことはできない。
あなたは私のすべては私エホバにある、と告白してくれたが、私もまた、私もまた、私のすべてをあなたに託したい。
あなたのものは私のものであるといってくれたように、私のものはあなたのものだ。
私は、あなたとあなたの子孫に私エホバにしかできない神秘的なことをおこして、あなたを最も多いなるものとして栄えるようにするだろう。」

悲しみと失意の雪が静かに降り、冷たく分厚い氷の城のようになっていた神様の心は、
アブラハムの一筋のまっすぐで熱い心によって溶けていきました。
2000年ぶりに神様は笑い、そして泣きました。

アブラハムは、その後山を下りながらイサクに口を開きました。
「私は、今日、心に滝のように神様の心が流れてくるのを感じた。
神様は私とあなたに人間として神を信じるものがいるということを初めて知った、とおっしゃった。
が、私もまた、エホバ神様がこれほどつらく、寂しく、また人間をじっと愛の目で見つめていらっしゃるということを初めて知った」

こうしていつもと変わらないような姿でアブラハムとイサクは待っている若者二人と合流し、旅立っていきました。

神様は彼を「大いなる父」と名付けました。
そうして、私を本当に知っている初めての人だとはっきりと心に刻み、これ以降何千年の月日がたってもご自分の名を名乗るとき、「私はアブラハムの神、イサクの神だ」と名乗られるようになりました。
神様が「人間」としてはっきりを覚えている始まりの人、アブラハムです。

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