ナザレの大工
マリアのおなかは日に日に大きくなっていきました。
マリアとヨセフは一緒になり、生まれる日を待っていました。
ヨセフは木材を扱って家具などのさまざまな木工製品を作りながらナザレという場所で暮らしていました。
ナザレはイスラエルの北のほうにある小さなうらさびしい田舎でした。しかしこのナザレの近くにあるガリラヤ湖の近くにあるティベリア神殿を建てるため、多くの人々が動員されていました。
ヘロデ大王
この神殿は、イスラエルを治めていたヘロデ大王が建てさせていたものでした。ヘロデ大王はイスラエルの神を仰いでいたのではありませんが、多くの建築を行いました。
神殿を再建させ、新しくたてるのも、イスラエルの人々に偉大な王だといわしめるためでした。自分の力を見せつけようとしていたのです。
しかしイスラエルの人々は彼がどんな良い政治をしても受け入れようとはしませんでした。きっと彼は嘘をついているに違いない。エルサレムの神殿を再建築する中でわれらの先祖偉大なるダビデ王の墓をあばいたのではないか?など、ありもしないうわさまでする始末でした。
おまけに、ヘロデ大王は自分の命を狙おうとしているのでは?と疑って血のつながりのある人達を殺すことさえしましたから、恨んでいる人も多かったのです。そのため、ヘロデ大王は、自分は誰かに殺されるのではないか?という不安にいつもさいなまれていました。
星を見る博士たち
東方とは、今でいうペルシャ地域です。
博士は王に言いました。
「あなた様にもうすぐお子がお生まれになるのでしょうか?」
ヘロデは言いました。
「私の一族で子が生まれるという話はとんと聞かないが、なぜそんなことを聞くのです?」
ヘロデは彼らの前では努めて人格者らしく振舞いました。それで博士たちは気を許して答えました。
「私どもは長年星を研究しております。
星の下に生まれたと申しますでしょう。人はみな、それぞれの定めを持っております。
最近の星の動きを見ましたら、この世界の全土を治める王を意味する星が昇ってきました。この星の位置からすれば、このベツレヘムに生まれるとわかるのです。
おそらくここ数日のうちにお生まれになると思いました。この偉大な方を一目拝みたいと思ってはるばる訪ねてきたのでございます。」
ヘロデは内心思いました。
(王だと!?私のほかにどんな王がいるというのか?)
しかし、博士たちに言いました。
「私は知ることができないが、あなた方は星の光を頼りに探し出してその王を拝むというのか?」
すると、博士たちは言いました。
「はい。光が強くさしている方向を見れば、探し出せると思います。」
ヘロデは言いました。
「それは面白い。あなたがたが誕生した未来の王を探し当てたらぜひ私にも教えてほしい。私もその王を拝み拝せねばなるまい」
それで博士たちは王に通行許可をもらい、エルサレムに入っていきました。
人口調査
同じころ、マリアとヨセフはベツレヘムのある家の馬小屋にいました。
マリアはいつ子供が生まれてもおかしくないほどおなかが大きくなっていました。
ヨセフとマリアは平穏に暮らして、子供が生まれる日を今か今かと待ち望んでいました。
そんなある日、急にローマの兵士たちがナザレの街へやってきました。
ローマの兵士が人を集めて大きな声で叫びました。
「勅令!勅令!ただいまからローマ皇帝のみことのりを伝える!皆よく聞け!
偉大なるローマ皇帝アウグストゥスは、世界を術治める王である。
この偉大な王が、全世界の人口を調査せよと命じられた。
イスラエルはローマの属州であるから、イスラエルの民もまた人口登録をせねばならない。
尚、皆その氏族の元居た場所で登録するように!逆らわないものはどうなるか、わかっているな!」
そういって剣を振りかざしました。
ヨセフは元、ダビデの子孫ですから、先祖の土地はエルサレムにあります。
仕方なく、マリアとヨセフは馬にのり、ナザレを出発しました。
ベツレヘムの夜
3日の道のりをひた走り夜になってエルサレムに到着しましたが、同じ事情を抱えた人でエルサレムはいっぱいになっていました。
親戚や知り合いを頼っていきましたが、すでに泊まるところがありません。身重なマリアを抱えてどちらに動くこともできそうにありません。
「馬が寝ている場所の一角しかないけれども、雨露はしのげます。そこでよければ」
そういってくれる知り合いの上に身を寄せるしかありませんでした。
みすぼらしい場所とはいえ、長い旅路でヨセフもマリアも本当に疲れていましたから、横になれる場所ができてホッとしました。
夜空を眺めると美しい星がきらめいています。
ほっとしたのもつかの間、長くラクダに揺られてきたせいなのでしょうか?
マリアは産気づきました。
こんなところで・・・。ヨセフはびっくりして飛び起きました。
マリアもヨセフも祈るしかありませんでした。
マリアは思いました。ここで生むしかない。どうか元気な子が生まれますように!
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