イエス様物語(4) ~王の誕生~

聖書の人物

羊飼いの訪れ

エルサレムから少し離れた草原では、羊飼いたちが夜空の星を眺めていました。

彼らは、夜空を見上げて座り込み、今日は一段と星が綺麗な夜だ、と天を見上げていました。

すると光の塊のようなものが天から降ってきたようにみえました。びっくりしているとその光の塊がこちらへ向かって来ます。目の前まで近づいてくると、人の姿をした天使でした。

天使は言いました。

「今日、イスラエルを救う方がこの世にお生まれになった。あなたたちに知らせに来た。」

そういって、天使はイスラエルのまちのほうへ進んでいきました。

羊飼いたちは立ち上がり、天使を追いかけていきました。

みすぼらしい馬小屋のような場所に入ったと思うと、天使は消えてしまいました。

そこに、一人の赤ん坊がいました。

羊飼いたちは今起こった出来事を静かに話して、赤ん坊を拝みました。

「おめでとうございます。あっしらは、何の難しいこともわかりませんが、健やかに育ちますように。」

黄金と没薬と乳香

王宮を出て宿に泊まっていた博士たちは、夜の星を眺めていました。

すると、星が一層光を放っているのがわかりました。

あれだ!

3人は目を合わせて静かにうなずいて、宿を出ていきました。

そうして、ついに赤子を見つけたのです。

何ともみすぼらしいところにいるけれど、

星の動きからして、この時間に生まれたこの子に違いない。

静かに馬小屋に入っていきました。

そうして、博士たちはマリアとヨセフに事情を告げ、

「どうぞ私たちに一目でよいので御顔を拝ませていただきたい」といいました。

マリアは

「生まれたばかりの子供は、やっと眠ったところですが、

 どうぞみてやってください」

そういいました。

すると、博士たちは静かに赤ん坊の前にひれ伏して

用意していた「黄金」と「没薬」と「乳香」をそれぞれ差し出しました。

マリアもヨセフも目を丸くしていましたが、博士たちは

「どうぞ、お受け取りください。何の心配も遠慮もいりません。」といいます。

そうしてまた、深くひざまずいて拝んだら、そっと挨拶をして馬小屋を出ていきました。

彼らは抜け出してきた宿に戻り、

「明日、ヘロデ王にこの喜ばしい知らせをどう告げようか・・」

嬉しい心で静かに眠りにつきました。

しかし、3人の博士が皆同じく「ヘロデのところへは戻るな」と言われる夢をみたので明け方早く、誰にも分らないように予定していた道を避けて静かにエルサレムの街を抜けていきました。

静かな夜

博士も羊飼いたちも帰った後、馬小屋はまた静かになりました。

マリアは、体は本当に疲れていましたが、

生まれてきた子の安らかな寝顔にほっと安堵して一息つきました。

無事に生まれてきてくれてよかった。

そう思いながら、ヨセフと婚約してからの短い間に起こった数々の不思議な出来事が走馬灯のように主出されました。

この子は確かに天からの授かりものなのだなあ、

しかし、一体どうやって育てていけばいいのだろう?

希望と不安と様々な想いが交錯しながら考えをめぐらせているうち、

いつのまにか眠っていました。

ヨセフもまた、マリアと生まれた子が眠りについたのを見届けた後、ふっと目を閉じると眠りについていました。

余りにも多くの出来事が数日のうちに起こったとは思えないほど静かな夜です。

エジプトヘ逃げよ

明け方、ヨセフは夢を見ました。

マリアを妻に迎え入れるがよい、といった天使がヨセフの枕元に立っていました。

夢の中でヨセフは はっとして起き上がりました。

天使が言います

「ヨセフよ、急いで起きてエジプトへ行きなさい。

 ヘロデがこの子を探して殺そうとしています。」

天使の声を聞き終わるや否や、ヨセフは、はっと目が覚めました。

夢とは思えないほどはっきりとした天使の声、

ヨセフが飛び起きたのでマリアも目を覚ましました。

ヨセフはマリアに静かに言いました。

いこう!

こうして夜が明ける前、薄暗いうちにヨセフたちは馬小屋を出発しました。

皆が起きた時、ヨセフたちはすでに、エルサレムの外にいました。

マリアと生まれた赤ん坊はラクダに乗って、エジプトに向かう砂漠の道を進んでいました。

誰もいない荒野をらくだの足音だけが響きます。

ヘロデ大王の怒り

夜が明けてヘロデは兵隊の長を呼び、宿にいた博士たちを連れてこいと命じました。

ところが、兵隊の長は気まずそうな顔をし、ひれ伏して言いました。

「大王よ、誠に誠に申し訳ございません。今朝早くに宿を訪ねましたら、宿の主人も知らぬうちに彼らは宿を去っていたと言うではありませんか。

慌てて彼らの来た道を見張っていた兵士たちにいいましたが、誰も彼らを見ておらぬ、と申します。」

ヘロデはすぐにわかりました。彼らはもう、エルサレムにはいないということを。

「おのれ!あのタヌキ学者たちめ!わしをあざむきよって!!」

日は高く昇っています。

「イスラエルめ!皆がわしを王から引きずり降ろそうというのか!

そうはさせない!

こうなれば、可能性のある奴は皆、殺してしまおう!

反逆罪だ!

未来の反逆者なら、大人になるまで待つこともなかろう。

どちらにしたって、わしに殺される運命なのだから。

今は男の赤ん坊だということがわかっている。

そうだ、どうせなら、2歳以下のエルサレムの男たち皆殺してしまえ!」

大声でその場にいた兵隊の長に命令しました。

正気とは思えないその命令にぽかんとしていると、

「お前は今ここで死にたいか?」と王は再び怒鳴りました。

叫び泣く声

あっという間にヘロデ大王の軍隊は街へと繰り出して家という家から2歳以下の男の子を引きずり出していきました。

母が乳を飲ませている途中でも、眠っている途中でも、大声で泣き叫んでも、かまわずどんどんと子供たちを奪っていきました。

そうして目の前でわが子の命が奪われた母の泣き叫ぶ声が近隣の町まで響くほどでした。

一晩で余りにも多くの子供たちがあっという間に命を奪われていきました。

あまりにも無残な出来事に、母親たちは悲しむことすらできずただ呆然と気が狂った人のように座っていました。

こうしていっそうエルサレムは哀しみの沈黙に包まれました。

少しして、多くの命を奪ったヘロデ大王は、呪われたかのように病気でこの世を去りました。ヘロデ大王に変わり、彼の息子ヘロデ・アンティパストがイスラエルを治めるようになりました。後にイエス様が「きつね」と呼んだ王がここに誕生したのです。

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