アブラハム物語(7)

聖書の人物

うまずめの女サライ

子供が産めない女性は「うまずめ」と言われました。
うまずめ、とは「石の女」と言います。役立たずの女だというのです。
女は子供を産んでこそ。アブラムとサラが生きた時代はそう考えられていました。

アブラハムの妻サライは、幼い時から異母兄弟として、そして妻として長年アブラムに連れ添ってきました。
生まれたときからあまりにも美しかったので、女王を意味するサライという名を名付けてしまうほどでした。

アブラハムは、彼女がそばにいてくれさえすれば、それでいいといつもいいました。
しかし、サライは子が産めないことで深く傷つき、その苦悩は深かったのです。

年齢とともに身体は衰えていきます。心はいつまでも変わらないけれど、時は残酷に過ぎていく。
もう、私に子供は望めない。
私もいつか、このおなかを痛めて産んだ子を、、その小さな望みをどうして全能なる神はかなえてくださらないのか?
小さな希望の火は焦りとなり、時にぶつけようのない怒りになり、悲しみとなり、そしてあきらめになっていきました。

サラは、「命はすべて、天の大いなる神様のものだから」そう慰めるアブラムの気遣いに、ふがいなく、申し訳なく、心痛めていきました。
美しいサラの顔からは次第に笑顔が少なくなってきました。

アブラムも又、サラを思うと心が詰まるような気持ちになり、思いは心に降り積もるばかりです。

アブラムの祈り

ある朝、いつものように明け方神様の前で祈るとき、膝をついてうずくまりながら祈りました。

すべては神様の思いのままになさってください。
私たちは、行けと言われればあなたのおっしゃる通りにそこへ行き、去れといわれればその通りにしてまいりました。
私たち夫婦の人生に、あなたという喜びがあれば、世の中のすべての富も名誉も必要がないことです。
けれど、私の人生に一つ大きな心残りがあるとしたら、私の妻のことです。

どうか私と私の愛する妻サライを思い出してください。
あなたとともに歩んできた人生の日々をどうか思い出してください。

異国の地をあちらこちらへと連れまわし、彼女に極度の緊張を強いる形になりました。
彼女は決して私に文句を言わず、静かに私についてきてくれました。
今、私も彼女も、今まで生きてきた時間がこれから生きるであろう時間をはるかに超えてくるようになりました。
面倒を見てくれる子もおらず、従者であったハガルからも精神的に苦痛を受け、彼女の心に寄り添ってあげることもできない状況です。
私が野所を残してこの世を去ったのなら、彼女はどうやって生きていけばいいのでしょうか?

私があなたの次に愛する私の妻サライを顧みてください。彼女の心がいつも平和で安らかで、うららかな春の日に、神様の息吹で凍り付いた大地がよみがえるように、彼女の心に温かいあなたの恩恵が降り注ぐようにしてください。
もう一度彼女に生きる力を与えてください。
この地上のすべてのものは存在する力にあふれていなければなりません。
彼女がもう一度主であるあなたによって生きる意味と価値を見出せるようにしてください。

祈りながらアブラムは心を制しきれず、あふれる思いが嘆きのような祈りになり、涙があふれた。
静かな明け方を打ち破るようなアブラムの祈りの声が静かにこだましていきます。

おごそかな声

その時、アブラムの心にはっきりと聞こえてくる声がありました。
「ここを去っていきなさい」とカルデヤのウルを出発したときの声です。

「心配するな」

厳か(おごそか)という言葉がよく似合う、深く優しいけれど鋭く心を突き刺すような、静かだけれど大きく響くような声。
主の声だ!
アブラムはその心に響く声にはっと驚いて口をつぐみました。

ビックリして心がふるえるようなびりびりした感じがして、じっとひざまづいていると、もう一度

「アブラムよ、心配するな。私は全能者だ。私にできないことなどあるだろうか」

という声が響きます。
そして続けて神様はおっしゃいました。

「私は約束を必ず行う全能なる神だ。私はあなたにかねてより約束してきた。あなたと妻サライから出る子孫を増やし、夜空の星のように多くしていくのだと。
その約束を忘れないために、あなたは今から名前を変えなさい。

もはや、父が高められるという意味のアブラムと言わず、多くの国民の父を意味するアブラハムと名乗りなさい。
また私の女王という意味のサライではなく、多くの国民の母を意味するサラと名乗りなさい。

私は約束を忘れない神だ。
必ず行う神だ。
あなたがたは年をとって、私にどうして子が生まれよう?というのか?
私にはできないことがない。

サラに男の子を与えよう。彼の名はイサク、笑いという喜びを天と地に与えるものだ。
彼を通して私はもっと大きく働きかけるだろう。」

神様は続けて言いました。

「今日、あなたが私に私を思い出してくださいといった。
しかし私は忘れない。
私は全能なる神だ。あなたを忘れない。
私は私の約束を忘れない。
私は永遠に忘れない。
どうか、あなたも私を忘れないでおくれ。
私があなたに寄せる思いは永遠だということを忘れないでおくれ。
私があなたにした約束は必ずなすのだと、信じてほしい。」

明け方の強い光がさしてきます。すべての闇を追いやる朝のしののめという光です。

神様が光となって私の暗い心と行く道を照らすというしるしなのだろうか・・

朝日をみながらアブラムはアブラハムとなって、サラはサライとなって、新しく生きる初めの日です。

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