嵐
いつにない美しい夕陽に、酒を酌み交わし、すっかりほろ酔いとなり、舟は静かに大海原を進んでいきます。
ほろ酔いで眠りについた海の男たちが明け方とともに冷たい潮風で目を覚ましました。
どこに引き返すこともできない大海原に、ぽつんと船が浮かんでいます。
風が我らの背中を押してくれる、
と喜んでいたのもつかの間、
右から左から、風がだんだんと強くなり、時にはつむじをまいてこちらにやってきます。
まるで自分たちの船めがけて風がうねりをあげて波とともにぶつかってくるのです。
船は舵をいくらきっても、右へ左へと大きく揺れはじめ、
ついにはひっくり返りそうな勢いです。
このまま海に投げ出されてないように、なんとか皆が助かる方法はないのだろうか?
持っている荷物を1つ、また1つと捨てて、ついにすべて捨てました。
しかし、大きな波に今にも飲み込まれそうな勢いです。
船乗りたちですら、どうしようもありません。
皆口々にさまざまな神を呼びました。
「昔いまし、今今士、海の大いなる神よ、どうか鎮まり給え、鎮まり給え!」
「ポセイドンよ、メデゥーサよ!」
ああ、何かのたたりだ、海の神が怒っているに違いない
と船の上で人々はありとあらゆる神の名を呼びました。
眠れる船の底のヨナ
船長は、「このままでは船がひっくり返ってしまう。船底にいては助からない。まさか、いないとは思うが・・」と船の底に人がいないか確認しにいきました。
すると、毛布にくるまってすやすやと眠っている一人の男がいます。
船長は心の中で、「なんてやつだ。この嵐の中でも一人すやすやと眠っているなんて」とあきれながら近寄っていき、男を起こしました。
「お兄さん、お兄さん、起きてくんなせえ!今この船は嵐に遭って、船事ひっくりかえりそうなんでさあ。もし船がひっくり返りでもしたら、こんなところにいたんじゃ助からねえ。さあさ、起きて上へあがってくだせえ」
すると、「なぜこんな嵐に?」と言いながら、目むそうな目をこすりながら男が起き上がりました。
船長は言いました。
「皆、何かの神の怒りを買っているのでは?といって、必死にそれぞれが信じる神の名を呼んでいるさ。兄さん、あんたは何の神を信じているんだい?あんたも命が惜しけりゃ、神を呼ばなきゃ!」
男は申し訳なさそうに言いました。
「すまない。私の名はヨナ。この嵐を起こしているのは、私が信じる神だ。イスラエルの神、天地万物を創造した神。」
そういって、ヨナは船の上へと上がり、皆に大声で叫びました。
「皆さん、皆さんの神を呼ぶ必要はありません。」そういって、これまでの事情を皆にことごとく話しました。
船乗りたちはビックリして言いました。
「あんたの神がどんな神だかわからねえが、よりによって何でこの船に乗ったんだ?海の上がどんなに危険なのか、知らなかったのか?ニネベっつったら反対方向じゃねえか!」
そういって、なんとか出発した港に向かおうとしましたが、すでに随分な距離をきていて引き返すこともできません。近くに小さな島もなく、船乗りたちは困り果てました。
ヨナは言いました。
「すまない。私を海に投げ入れてくれ!そうすればきっと、私の神全能なるエホバはこの船に起こしている荒波を沈めてくださるだろう」
そこで仕方なく、船乗りたちがヨナを海に投げ入れた瞬間、嵐がピタリとおさまりました。
しかしヨナの姿は海の藻屑と消え、どこにも見当たりませんでした。
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