縛られたイエス
暗がりの中でユダは大きな声で「先生!」と呼びました。
よく見ると、多くの人達が剣と棒をもって後ろについてきていました。
イエスは自分を捕らえるために来たとわかっていました。
しかし、弟子たちがそばにいたので、彼らだけでも守ろうとして言いました。
「だれを捜しているのか」
それで、多くの人々は言いました。
「ナザレのイエスを」
そこでイエスは答えました。
「私がそのイエスだ。私だけをとらえに来たのだから、私のそばにいる人たちは一緒に縛ったりとらえたりしないでほしい。」
ペテロは、余りにも大勢の人のたいまつが一斉に襲い掛かってくるような気がしたし
ぎらりと光る多くの剣が今にもイエス先生に差し込まれそうだと、咄嗟に自分のもっていた剣を振りかざしました。
すると、大祭司の僕マルコスの耳を切り落としてしまうことになったのです。
イエスはペテロに言いました。
「剣をさやに納めなさい。父がわたしに下さった杯は、飲むべきではないか」。
そうしてその しもべを癒し、彼らが打つ縄にかかったのです。
イエスを縄で縛りあげた人々は、イエスを大祭司カヤパという人のところへ連れていきました。
不当な裁判
大祭司カヤパのところには、律法学者、長老たちが集まっていました。
彼らはは、イエスを死刑にするため、イエスに不利な偽証を求めようとしていました。
そこで多くの人たちが出てきて、お金のことや異性のことなどありとあらゆる嘘の証言をさせましたが、決定的な証拠を得ることができずにいました。
その間イエスは何も答えずにじっと黙っていました。
最後にふたりの者が出てきて、
「この人は、わたしは神の宮を打ちこわし、三日の後に建てることができる、と言いました」。
すると、大祭司が立ち上がってイエスに言った、「何も答えないのか。これらの人々があなたに対して不利な証言を申し立てているが、どうなのか」。
その質問にも、イエスは黙っていたので大祭司は言った、
「あなたは神の子キリストなのかどうか、生ける神に誓ってわれわれに答えよ」。
イエスは彼に言いました。
「あなたの言うとおりだ。私がそうだ。私が御言葉を伝えて多くの人達を癒し、神のわざを成してきたのだ。そのときにどうして私にそう聞かなかったのか?
しかし、わたしは言っておく。あなたがたは、間もなく、人の子が力ある者の右に座し、天の雲に乗って来るのを見るであろう」。
すると、大祭司はその衣を引き裂いて言った、「彼は自分を神の子だといって神を汚したのだ。どうしてこれ以上、証人の必要があろう。あなたがたは今このけがし言を聞いた。あなたがたの意見はどうか」。
すると、彼らは答えて言った、「彼は死に当るものだ」。
このような審議が一日中続いて夜になっていました。
彼らは、不利な証言をしてはイエスの顔につばをかけ、目隠しをしたあと殴ったり、叩いたりしていいました。
「キリストよ、言いあててみよ、打ったのはだれか」。
しかし、彼ら自身で死刑にすることは当時のイスラエルではできませんでした。ローマの総督ピラトの許可を得なければできないことだったのです。
そこで彼ら祭司長たち、民の長老たち一同は、イエスは重罪人ですので死刑の決済をお願いするための様々な文章や証人を急いでそろえたのです。
そして夜があけると同時に、 イエス、総督ピラトに引き渡しました。
イスカリオテのユダ
イエスを裏切ったユダは、イエスが罪に定められたのを見て青ざめました。
罪のない人を一晩で死刑にさせるやり方にびっくりしていいました。
それで、彼を売った礼金としてもらった、銀貨三十枚を祭司長、長老たちに返して
「わたしは罪のない人の血を売るようなことをして、罪を犯しました。イエスには罪はないのです。まして、死刑などに値する罪がありますか?どうか、このような不当な裁判をやめてください。」
しかし彼らは言った、
「ご苦労だったな、ユダ。もうイエスは我々の手を離れて神の御心通りにピラトの手に渡った。我々は、今日神に栄光を帰せたことを感謝する。お前に与えた金を受け取る必要がない。だから貧しい人に分け与えるなり、それを元手に何とかすればよい。」
そこで、彼は銀貨を聖所に投げ込んで出て行き、首をつって死にました。
ピラトの庭で
縛られたままでイエスはピラトの前に立ちました。
ピラトはユダヤ人たちが朝から大きな声でわめきたて暴動になりそうなのをみて、仕方なく門を開け、イエスを引き取ったのです。
ユダヤ人たちが「裁判をしてください!」とわめきちらすので、その前に書類を審査せねばならぬ、といって人々を席につかせました。
ピラトは言いました。
「この書面を見ると、あなたがユダヤ人の王と名乗ったのだ、とあるが本当か」。
イエスは
「そのとおりです。しかし私は世の王ではなく、神がこの時代に遣わした神の使命者です。私も一人の人間ですが、私を通して神様が働かれユダヤの人々を宗教的に精神的に救うため神が遣わしたのです。」とこたえました。
その後、祭司長、長老たちが様々なことを訴えるとき、イエスは「それは違う」とも「そうだ」とも何ともこたえませんでした。
それでピラトは、
「あんなにまで次々に、あなたに不利な証言を立てているのが、あなたには聞えないのか。あなたもここであなたの言い分を私には聞く権利があるのだから」
と促しましたが、ピラトが不思議に思ったほどに、イエスは何を言われても、ひと言もお答えませんでした。
様々な罪びとを裁いてきたピラトには、このユダヤの人たちの証言は偽りであるとわかりました。
ピラトはユダヤ教についてしりませんでしたが、人を見ればわかると思ったのです。
良く調べもしないで2日前に捕らえた人を死刑にするなど、裁判の常識から外れていることばかりだったのです。
しかし、彼らは口々に死刑以外に何がありますか、と泣いたり怒りのあまりに興奮して倒れたりするなどして収集が付きそうにありませんでした。
何とかこの騒ぎを沈めてイエスを返す方法はないのか?と思案したとき、
祭のたびごとに、総督は群衆が願い出る囚人ひとりを、ゆるしてやる慣例になっていたことを思い出しました。
それで、ピラトは一計を案じたのです。
バラバというとんでもない極悪人がとらえられていました。彼がまた世の中に放たれたのなら、イスラエルの町は女や子供たちが不安で外を歩けなくなるのではと畏れられるような狂気の沙汰をする男なのでした。
彼を許すなどと言う分別のない人間は絶対にいないだろう。ましてやユダヤ教の指導者たちで最も分別のある人間たちではないか。
それで、彼らに言いました。
「今、お前たちの慣例に従って、囚人一人を許してやる慣例となっている。
今年は、バラバか、それとも、キリストといわれるイエスかのどちらかしか許す対象はいない。おまえたちは、だれをゆるしてほしいのか。」
イエスの血の代価
この時、ピラトの妻はあらかじめ総督に「キリストと呼ばれるイエスには絶対に関係しないでください。我が夫はとんでもない重罪人です。あのような無実の方を許すのなら神の怒りがイスラエルに下るはずです。私は夢で恐ろしい啓示を受けたのです。」と言ってきたのです。ですからピラトは、妻でさえ絶対にというのならイスラエルにも良心があり、この騒ぎもおさまり、無実の人を罪に定めないで済むという気持ちでいました。
ところが、
祭司長、長老たちは、バラバをゆるして、イエスを殺してもらうようにと、群衆を説き伏せた。
ピラトは呆れました、
「それではキリストといわれるイエスは、どうしたらよいか」。
すると、彼らはいっせいに「十字架につけよ」と言った。
そこでもう一度、ピラトは言いました、「あの人は、いったい、どんな悪事をしたのか。私は罪のない人を罪に定めてしまう罪を犯したくない。」。
すると彼らはいっそう激しく叫んで、「十字架につけよ」と言った。
ピラトはため息をついて言いました。
「私はこの人を罪に定めたのではない。だから罪のない人を殺した罪を神に問われたら、わたしには責任がないとこたえるがよいか。おまえたちが自分で責任を取れるというのなら、始末をするがよい。我らローマ帝国ではない、お前たちの先祖たちから代々信じている全能の神にお前たちが誓ってお前たちの信仰でそれをしなさい」。
すると、民衆全体が答えて言った、「もしこのイエスがキリストと呼ばれる救い主で神が送ったものであり、キリストを殺した血の責任を終えというのなら、ピラト総督に関係はございません。その代価は、われわれとわれわれの子孫の上にかかってもよいのです。我らの決心はかたいのです。」。
そこで、ピラトはバラバをゆるしてやり、イエスをむち打ったのち、十字架につけるために引きわたしました。
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