アブラハムの物語(2)

聖書の人物

父テラの死

テラには、4人の子がいました。
後のアブラハムとなるアブラム、ナホル、ハラン、サライです。
サライは、アブラハムとは異母兄弟でした。

テラの子の一人、ハラン、ウルの地で若くして亡くなりました。
彼の子であるロトたち3人をテラとアブラムたちが引き取って面倒を見ていました。

テラは、「ウル」を出て「カナン」へ行けというある日神のお告げを受けました。
長い長い旅です。

途中、「ハラン」という場所で少し休むことにしました。少しの休みがとても長くなり、結局ハランの地に住んでしまうようになりました。

ハランへの移動の前後、アブラムとサライは兄弟から夫婦になりました。
子供に恵まれない夫婦でしたが、兄弟であるハランの子たちや、父テラとともにハランでの暮らしを続けていました。

ある日、テラは、ハランの地で亡くなります。
何年もの月日が流れていたでしょう。

静かにテラは息を引き取りました。

神の声

テラを葬り、家が落ち着いてきたころ、
アブラハムは神様の声が聞こえるようになってきました。
静かで、ゆっくりと語りかけるその声は、心にずしんと響いてくるのでした。

「新しい場所へ行こう」

明け方早くに静かに祈りをささげているアブラハムの心に、隅渡った空気の中から、
静かだけれどもはっきりと聞こえてくる声はでした。

(私の願望が声になって聞こえてくるのだろうか・・)

アブラハムはその声を打ち消すように、立ち上がって一日の仕事を終えました。

また次の日、深く祈っていると、

「ここを離れて新しい場所へ行こう」

不思議にもその声は、続けて聞こえました。
その声に問いかけてみよう、と勇気を出して、

「一体どこへ?」と問いかけてみると、重たい神様の口の門が静かに開かれたかのように、ぽつり、ぽつりと言葉が続いて聞こえました。

「あなたは国を出て、親族に別れ、父の家を離れ、わたしが示す地に行きなさい。」

この年老いた私が?一体何のために?

そう思った瞬間、まるでその声にならない声にすぐさま反応が返ってくるかのように、

「私のあたらしいことのためだ」

という声が聞こえます。

「大きいものを得るには、大きな器を用意せねばならない。
今、あなたは自分の持っていたすべてを一度おいて、私にすべてを任せてみてほしい。
わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福するから、どうか私と一緒に来てほしい」

カナンはあなたの先祖の地ではないか?

旅立ち

アブラムは思いました。
私には子もいない、縛られるものもそう多くはない我が身だ。
もともと、父が行こうとしていた地でもあるカナン、もう少しこの川沿いを上るようにいけば行けるのだろうか?

人生は一度きりだ。
どうせなら、未練も後悔もない人生を生きてみたい。
これがきっと私の人生の最後の挑戦になるんだろう。

しかしサライはどう思うのだろうか?

恐る恐るサライにいきさつを含めて話してみると、
サライは目を閉じて少し考えた後、言いました。
私はあなたの妹であり妻です。いつでもどこでも私はあなたと一緒ですから。

親族に一人、また一人とあいさつをしました。

ナホルは、私は父テラの墓とこの地に残ります。子供たちもいますし、と答えました。

ハランの子ロトにも、あいさつをすると、ロトは、おじさん、私も一緒に連れて行ってください。
と言いました。
ロトの兄弟は、ナホルの子供たちと一緒にいるといいましたが、ロトだけは新しい地へ行くといったのです。

神様に聞いてみたら、行きたいのなら連れていきなさい、といったので、連れていくことにしました。

ハランでも、遊牧をしながら多くの富を得ていたアブラムの一族。
彼らにも別れを告げると、その中の何人かは一緒に行くといいました。

弟ナホルは言いました。兄さんが蓄えた富は兄さんのものだから、一緒にもっていってください。
何かがあって戻ってきたくなればいつでもお待ちしています。

出発の日、アブラムとナホルはひしと抱き合いました。
もう一生会えないかもしれない、
しかし、神様の御心通りに・・。
想い出が走馬灯のように浮かんでは消え、浮かんでは消えていきました。

言葉にならない思いが二人の間を流れていったあと、ナホルは言いました。

「神のご加護を。大いなる祝福が満ち溢れますように」

そうしてアブラハムはカナンのほうを向いて旅立ちました。

もう、後ろを振り返るまい。
過ぎた日々は、美しくても、悲しくても、つらくても、うれしくても、過ぎた日だ。
今を大切に生きて未来を作り上げることが大切だ。

テラがいつも言っていたその言葉を胸に、明け方早くに、アブラハムは出発していきました。

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