イエス様にはヨハネという従兄弟がいました。
ヨハネという人は数多くいましたので、このヨハネをバプテスマのヨハネと呼びました。
それは、彼が「バプテスマ」と呼ばれる洗礼を授けた人だったからです。
母エリザベツと父ザカリヤ
イエス様が生まれる半年ほど前、バプテスマのヨハネはこの世に生を受けました。
彼の父ザカリヤは大祭司でした。
母エリザベツも、モーセの兄アロンの家系から生まれた娘でした。
家柄上申し分のない二人でしたが、ザカリヤとエリザベツの間には長い間子供が生まれませんでした。
もうお互いに年をとって、子供を授かることができる年齢をとうに過ぎたなあ・・
周囲の人ばかりではなく、ザカリヤもエリザベツもあきらめていたころでした。
その名はヨハネ
祭司たちは順番にエルサレム神殿の聖所でお香を焚いて祈りをささげることになっていました。
くじを引いてあたりを引いた一人だけが聖所の中に入り、深く祈りをささげ、決められた儀式を行っていくのです。
ある日、ザカリヤがくじにあたり、このお香を焚く当番となりました。
それで、今までと同じようにザカリヤは一人で聖所に入っていって香を焚きながら祈りを捧げていました。
しばらくすると、「ザカリヤよ」と声がします。
びっくりしてザカリヤが目を開けると、祭壇の横に人のようなものがたっているではありませんか。
一人しかいないはずなのに、どこから入ってきたのだろう?
白い衣を着た背丈が3メートル近くもある姿に驚いて言葉も出ません。
ザカリヤは予想もしない事態に戸惑い、恐怖すら覚えて小刻みに震えました。
すると、人のようなものが口を開いて言いました。
「ザカリヤよ、怖がることはありません。私は神に遣わされた天使ガブリエルです。
今日は神様からあなたに大切な知らせを伝える為、ここへやってきました。
あなたの祈りの答えをもってきたのです。
あなたは長年子が欲しいと祈ってきたでしょう?あなたの妻エリザベツは身ごもって男の子を生むでしょう。
その名をヨハネと名付けなさい。
このヨハネはイスラエルの偉大なる預言者エリヤのような使命を果たす御心をもって生まれます。」
ザカリヤは天使の声を聴きながら少し気持ちが落ち着いてきました。
それと同時に言いました。
「何をおっしゃいますか。私も妻エリザベツもいつ天に召されるかもしれぬほどの年寄りでございます。」
すると、ガブリエルは言いました。
「全知全能なるエホバに不可能はない。そして、神は御心を定めたとおりに行う。
あなたは私を遣わしたエホバを信じないというのか?
信じないのなら、あなたは子が生まれるまで口がきけなくなるようにして、このお告げが正しいということを示そう」
そういっ高と思うとガブリエルは姿をすっと消してしまいました。
祭司の勤めが終わり、聖所を出てきてもザカリヤは言葉が出てきません。
待っていた祭司の仲間たちは、口々に「気っと幻でも見たんだろう。遅いと思ったが口がきけなくなるなんて」と噂しあいました。
マリヤとエリザベツ
ザカリヤが口がきけなくなった後、不思議にもエリザベツは身ごもったのです。
それはそれはうれしい事でした。
結婚した女が子供を産まないなんて・・女として情けない、などと心ないことばを投げかけられて幾度涙の祈りに明け暮れたかわかりません。
家柄の良い二人でしたから、周囲の目はより一層子供が生まれないことに対して冷ややかでしたから、エリザベツは肩身の狭い思いをしていたのです。
ですから、身ごもった時、エリザベツは
「主は、わたしを心にかけてくださって、人々の間からわたしの恥を取り除くために、このような奇跡を起こしてくださった」
と泣いて喜んだのです。
そのようにして6ヶ月目となったころ、イエスの母マリヤが訪ねてきました。
「エリザベツ姉さんが身ごもっている、と天使が言ったのです。
うれしくてここまで来てしまいました。」
その挨拶を聞いた時、エリザベツのおなかの中で子が喜び勇んで踊るように動きました。
それでエリザベツは
「あなたが来て私の子がとても喜んでいるみたい。さあ、こちらで一緒に話でもしましょう。いつものように遠慮なく泊まっていけばいいのだから。」とマリヤに言いました。
マリヤとエリザベツは幼いころから親しい中でしたから、そばによっていろんな話を始めました。
そうして、お互いに合わない間にあったことをあれこれと話したのです。
マリヤは自分のところに天使が来て、自分も身ごもったのだといわれてしまったのだ、となかなか言えない話を打ち明けることができたのです。
根拠もなく身ごもったのなら自分は婚約者のヨセフに離縁されるかもしれない。
「最後の挨拶になるかもしれません。」とマリヤは言いました。
しかし、エリザベツは言いました。
「マリヤ、いえ、これからはマリヤ様とお呼びしなければならない日が来るかもしれないわね。
心配しないで。
主がしてくださることを信じてゆだねれば大丈夫よ!
あなたが主の御心通りにすべてを捧げて生きようとしてきたことを誰よりも私が知っているつもりよ。
エホバ神様があなたを絶対に悪いようにはしないわ!
お互いに母になれる喜びがどれほど大きいでしょう。
その子がただ神の御心通りに生きられるように私達は祈り、主にゆだねて信頼する母となりましょう!」
そういってマリヤを励ましました。
そうして、マリヤをエリザベツの家に3ヶ月ほど とめおくことにしました。
そのうち、ヨセフとの結婚が正式に決まり、マリヤは彼女の夫ヨセフのところへ戻っていきました。
ホサナ!
マリヤがかえって一月ほどたったころ、無事エリザベツは男の子を産みました。
子供が生まれたというだけでもうれしいのに、男の子とは!
これでザカリヤの家も安泰だなあ!
親族が口々に喜びました。
さて、生まれて8日名に割礼の儀式をしたのち、いよいよ名前を皆に発表しなければならない。
エリザベツの親族もザカリヤの親族も、「ザカリヤ」がよかろう!といいました。
当時は父と同じ名前をもらうことが大きな意味を持っていたのです。
ところがエリザベツは「いいえ、この子はヨハネという名だと夫にかねがね言われています」というのです。
皆言いました。「血統を重んじる我らイスラエル、その中でも特に由緒正しい我ら一族に、ヨハネなどという名はいないではないか?
何を根拠にそのような名をつけるというのか?」といったり、「名前はあなたの好みでつけていいようなものではない。」などと口々に言いました。
しかしエリザベツは「絶対にヨハネという名にしなければなりません。神のご意思なのです。そのような啓示を受けたのです。」と言い張るので、
「では父であるザカリヤに聞いてみよう。ザカリヤよ、そなたはこの子の名をどうすべきだと思うか?口がきけなくともここに書いてみればいいではないか」
そういって、書くものをもってきました。
するとそこに「その名はヨハネ」と書いたので、皆、不思議に思って静かになりました。
静かになった時、とたんにザカリヤは「ハ、ハ、ハレルヤ!」といいました。
「ハ、ハ、ハレルヤ!」
「ハ、ハ、ハレルヤ!」
「ハ、ハ、ハレルヤ!」
だんだんとザカリヤの声は大きくなり、
「ハ、ハ、ハハハハハハ!ホサナ、ホサナ!!!」
といってひとしきり感謝の祈りを終えた後、今まであったことを話し始めました。
それで、この子の名は無事「ヨハネ」と名付けられました。
人々はあまりにも不思議な出来事にびっくりして、互いに「こんなことは初めてだ!いったいこの子に何の御心があるのだろう?」と言いながら帰っていきました。
ザカリヤの祈り
ザカリヤは生まれた子を前に手をおいて祈りました。
主なるイスラエルの神よ、
私はあなたをほめたたえます。
あなたはあなたの民であるイスラエルを顧みて、ついにダビデの家に救いの王を送られるその時になったのです。
古くから、聖なる預言者たちの口によって
この救い主を送るのは、わたしたちを敵から、またすべてわたしたちを憎む者の手から、救い出すためだとおっしゃいました。
神様はわたしたちの先祖にしたこの救い主を送るという約束を片時も忘れず、
様々な苦しみから幾度となく私達を救い出してくださいました。
そうして、私達の人生、命ある限り、きよく正しく、みまえに恐れなく仕えよとおっしゃり、今まで私達の祈りを受け取って下さってきたのです。
こうして、私たち夫婦は今、このような小さき者の祈りまでも聞いて下さり、苦しみと悩みと恥をすべて漱いで下さり、大きな祝福をくださるようになりました。
この子は、あなたの御心によってこの世に生を受けた子、
この子がただただ清く、正しく、神様の御心をなしていける子となりますように。
天使を通して神様は私におっしゃいました。
”幼な子よ、あなたは、いと高き者の預言者と呼ばれるであろう。
主のみまえに先立って行き、その道を備え、罪のゆるしによる救をその民に知らせるのだ。”
と、メシアを呼ばれる救い主が来るその道を整えよとおっしゃいました。
この子が救い主と呼ばれるメシアを深く知り、この子の証でもって離れている民の心がエホバ神様に近づけるようにしてください。
ザカリヤはこの日から、この子を深い祈りとともに厳しく育てました。
それでこのヨハネは、聖書について知らぬことがないというほど詳しくなり、祈りと知恵にあふれた人物となりました。
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